何気なく流れてきた昔の曲に、ふと手が止まる。懐かしいだけのはずなのに、胸の奥が少し熱くなる。そんなことはありませんか。
曲名より先に、あの頃の部屋や、いつも歩いていた道が浮かぶこともあります。長い間思い出していなかった自分に、突然会ったような気持ちになるのかもしれません。
昔の曲が心に響く理由を、音楽と記憶の研究、そして一つの人生の見方から考えてみます。もとになったのは、mizの世界の動画台本「昔の曲が刺さる理由」です。
1.懐かしい曲と一緒に、あの頃の空気が戻ってくる
昔よく聴いていた音楽には、メロディーだけでなく、その頃の暮らしも重なっているように感じられます。
狭い部屋で過ごした夜。通学や通勤の途中。先のことがまだよく分からず、それでも何かを始めようとしていた時間。人によって、思い浮かぶ景色は違うでしょう。
はっきりした出来事を思い出せなくても、「あの頃は、こんな気持ちだったな」と感じることがあります。音楽が、言葉にしないまま置いていた気持ちに触れる。そんなふうに受け止めてもよいのかもしれません。
2.音楽が人生の記憶を呼び起こすことは、研究でも調べられています
音楽をきっかけに、自分の人生の出来事を思い出す現象は、研究の対象にもなっています。これは「自伝的記憶」と呼ばれる、自分自身の経験についての記憶に関わるものです。
Janataらが2007年に発表した研究では、ポピュラー音楽の一部を聴いて浮かんだ記憶や感情を、実験室とオンラインで調べました。曲の提示の一部で人生の記憶が呼び起こされ、懐かしさを含む感情も報告されています。出典:Characterization of music-evoked autobiographical memories(2007年、著者の研究室の論文一覧)
この結果は、どの曲でも誰にでも同じ反応が起こるという意味ではありません。また、「昔の曲を聴けば心の問題が解決する」と示した研究でもありません。
ここから先の「忘れていた自分に会う」という言葉は、そうした体験を人生の中でどう受け止めるかという、台本の比喩です。研究の結果とは分けて、静かに考えてみたいと思います。
3.思い出すのは、楽しかった日だけではない
昔の音楽に触れたとき、浮かぶのは明るい思い出ばかりとは限りません。
うまくいかなかったこと。言えなかった言葉。誰にも見せずに頑張っていた日々。曲の途中で、そんな時間がよみがえることもあるでしょう。
その気持ちを、すぐに「いい思い出だった」とまとめなくてもよいのだと思います。懐かしさと寂しさが一緒にあってもかまいません。今も少し痛むことがあるなら、そのまま距離を置いてもよいのです。
聴き続けるのがつらい日は、曲を止めて大丈夫です。懐かしい音楽を楽しむ時間にまで、我慢を持ち込む必要はありません。
4.昔の自分を、今の物差しだけで採点しない
50代、60代と歳を重ねて昔を振り返ると、「どうしてあんなことをしたのだろう」と思うこともあるかもしれません。
けれど、あの頃の自分には、今の経験も、今分かっていることもありませんでした。先が見えない中で、できることを探していたのではないでしょうか。
曲を聴きながら思い出す自分に、正解を教え直すより、「あのときも一生懸命だったね」と声をかけてみる。そうすると、過去を見つめる言葉が少しやわらかくなるかもしれません。
もし昔の自分に一言伝えられるなら、何と言いたいでしょうか。そんな問いを考えたいときは、10年前の自分に伝えたいこと|そのまま進んで大丈夫も読んでいただければと思います。
5.一曲の余韻から、今の暮らしへ戻る
昔の音楽を聴く時間を、大きな振り返りの作業にする必要はありません。気になる曲を一曲聴いて、お茶を飲む。そのくらいでも十分です。
「あの頃は、これが好きだったんだな」「こんな時間もあったんだな」。何か浮かんできたら、その気持ちを少しだけ眺めてみる。思い出が出てこなければ、音楽そのものを楽しめばよいのです。
聴き終えたら、今いる部屋に目を向けてみる。あの頃から続いてきた時間の先に、今日の自分がいます。変わったものも、変わらず好きなものもあるでしょう。
今の自分にもやさしい言葉を向けたいときは、今の自分に伝えたいこと|よくやっているよも、ひと息つくきっかけになれば幸いです。
まとめ|懐かしい音楽は、忘れていた自分に会う入り口かもしれません
昔の曲が心に響くのは、音楽と一緒に、その頃の自分の気持ちも思い出すからなのかもしれません。
元の台本には、「昔の音楽は、過去に戻るためのものではなく、忘れていた自分に会うためのものなのかもしれません」という言葉があります。
過ぎた時間を取り戻さなくても、あの頃の自分に、少しやさしくなることはできそうです。うまくいった日も、思うようにならなかった日も、その時間を生きてきた自分がいます。
懐かしい一曲に心が動いたら、今の自分にも、そっと伝えてみませんか。「よくここまで来たね」と。

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